2018年3月アーカイブ

毎年、大河ドラマの主人公、或いはその時代の歴史小説を予習の為に読んでいます。

今年は西郷隆盛が描かれるので予習をどの本でしようか迷いました。

ファーストチョイスはやはり司馬遼太郎の「翔ぶが如く」でした。

しかし、文庫本の裏を読むと、どうやら征韓論の辺りがメインの様で、安政の大獄から予習したい僕としては物足りなく思いました。

次に西郷隆盛に関する著作が多い海音寺潮五郎の本を探してみました。「田原坂」、「西郷と大久保」、「史伝 西郷隆盛」等どれも大河ドラマの予習としては足らない感じがしました。

探し回っていると、朝日文庫で西郷隆盛の生涯を描いた著作がある事が分かりました。

しかしながら、本屋で朝日文庫の棚を探しても見つかりません。

よく調べてみると現在では角川文庫で新装版として出版されている事が分かりました。

角川文庫の時代小説を多く扱っているコーナーでやっと見つけた時は非常に嬉しかったです。

第一巻の初版本を買う事が出来ましたが、発行は平成29年5月25日と1年も経っていません。

西郷どんが大河ドラマに決まって出版が決まったのでしょうかね。

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海音寺潮五郎著 「西郷隆盛」全四巻(角川文庫)

 

海音寺潮五郎の著作では「武将列伝」が傑作だと思います。史伝文学と言われるそうです。

司馬遼太郎はエンタテイメント性が多少高いと思われますが、海音寺潮五郎は様々な古文書等を掲げながら物語を進めており、史実に忠実な感じがしました。

黒船来航から将軍継嗣問題、公武合体、安政の大獄、尊王攘夷から尊王討幕への流れ等が網羅されていて明治維新を学び直すのにも最適の書だと感じました。

 

 

第一巻

西郷が江戸へ出府するところから始まり、藤田東湖らとの出会い、安政の大獄、月照との入水自殺、一度目の島流しから西郷が帰還するまでが描かれています。

西郷の純粋さ礼儀正しさと共に強情さも描かれており、後の悲劇を感じさせました。

海音寺の清濁併せ飲むタイプではないという西郷評には新たな気付きがあります。

大久保と西郷の友情も十分に描かれており、何故征韓論のみであそこまで袂を分かってしまったのかと、全巻読み終えたいまでも思います。大久保の陰謀めいたところは少しだけ描かれていますが。

島津斉彬や藤田東湖らとの出会い、邂逅の場面は読んでいて快いものです。

西郷どんでは藤田東湖が出てくるのか、誰が演じるのかが楽しみです。

「西郷どん」は良い場面が多く、島津斉彬の死とそれによる絶望、安政の大獄の苛烈さ、月照との友情と入水は名場面となるであろうと、今から感動お預け状態です。

西郷どんで郷中の仲間として有村俊斎、後の海江田信義も出ていますが、軽躁さを感じさせる人物として描かれていたので、今後の展開に注目したいと思います。

 

第二巻

西郷隆盛が島津久光に疎まれるところから、寺田屋事件、二度目の島流し、蛤御門の変、勝海舟との出会い、長州征伐、糸どんとの結婚、薩長同盟への地ならしが描かれています。

久光に疎まれた西郷を大久保利通が切々と説得する「兵庫の月」も良い場面として大河ドラマで描かれるのではないかと期待しています。

禍福は糾える縄の如しとはよく言ったもので、二度目の島流しが無ければ西郷は寺田屋事件に巻き込まれていたかもしれず、そうであれば明治維新も成功していなかったであろうと考えると、天なるものの存在を感じざるを得ません。

ここで「俺ごと刺せ」で有名な郷中の仲間、有馬新七は死んじゃうんだよね。

寺田屋事件も大河ドラマ1回分使って描かれるだろうか。島津久光の愚劣さ酷薄さをいやと言うほど描いてほしい。

ここ何年も蛤御門の変を薩摩の目線から描いた大河ドラマは無かったので、そこも楽しみです。この時長州は落ちぶれて、その後会津藩は賊軍に貶められるわけですが、常に中心に居続ける薩摩の力量はすごいものがあります。

長州征伐後の交渉において示す西郷の礼儀、温情の描かれ方も楽しみです。

この間、「西郷隆盛」では長州藩内部の抗争も詳しく描かれていますが、大河ドラマではそこまで描く余裕はないだろうなと想像します。それほど西郷隆盛の一生は壮大で濃密だと思います。

「西郷隆盛」を読んで再認識しましたが、「小さく叩けば小さく響き、大きく叩けば大きく響く」で有名な勝海舟や坂本龍馬との出会いは、この長州征伐の頃だったんですね。ここから物語はさらに面白くなってくると思っています。

「西郷どん」は史実と異なる場面が多いと言われていますが、高杉晋作と出会う場面を作るのか楽しみなところです(^O^)

また、二巻で盛んに描かれている明治維新におけるイギリスとフランスの外交戦まで描かれるのかも興味深い。

 

第三巻

第一次長州征伐後の幕府のゴタゴタから、薩長同盟の成立、第二次長州征伐、孝明天皇崩御、倒幕に向けての謀議、大政奉還、倒幕の密勅、王政復古の大号令、鳥羽・伏見の戦い、官軍東征開始までが描かれている。

西郷どんでは3月現在、徳川慶喜を擁立しようとしていますが、ここからどのように討幕へと考えが変化していくのか、変化をどのように描くのかに注目したいと思います。

また3月現在、未だに西郷どんでの坂本龍馬役が発表されていません。役者なら誰でも一度は演じてみたい役を誰が演じるのか楽しみです。

薩長同盟に際し、西郷が長州を素通りしたいきさつや、薩長ともに意固地になって同盟がとん挫しそうになる経緯、龍馬の説得により西郷が「分かりもうした、こちらから同盟を切り出しましょう」となる流れをどう描くか楽しみです。

近年、坂本龍馬を暗殺した黒幕は西郷薩摩藩であるとの主張が強くなっているように思いますが、海音寺潮五郎は否定の立場でした。全巻通して西郷はそうした陰険さは無いとの意見でしたからね。江戸薩摩藩邸焼き討ち事件も西郷の支持ではないそうです。

この本を読んで、倒幕に関し薩摩藩は一枚岩でなく、倒幕に消極的な派もあった事を初めて知りました。そこまで描くとややこしくなるので、西郷どんでは省略かな。

倒幕の密勅に向けての大久保利通、岩倉具視の暗躍と、それに西郷がどのように関わるのかも楽しみです。

倒幕の密勅が降った後、鳥羽・伏見で戦端が開かれる場面も緊張感の高いものになるでしょうね。本の中でも、いかにこの戦いが薄氷を踏むものであったか、天運に恵まれたものであったかが描かれています。

 

第四巻

官軍の東征、江戸無血開城までの山岡鉄舟、勝海舟、西郷隆盛の活躍、江戸開城後の諸問題が詳しく描かれています。最後に彰義隊戦争が描かれ、海音寺潮五郎が事情によりこれ以降は書き続ける事ができません、として物語は終わってしまいます。

後は要領だけを、奥羽越列藩同盟との戦争、廃藩置県、岩倉使節団、征韓論、西南戦争について簡潔に描かれています。

逆に、この辺は「翔ぶが如く」を読んで完結と言う事になるでしょうか。

3月現在、勝海舟役は遠藤憲一が発表されています。これは面白い海舟になるでしょうね。

鈴木亮平と遠藤憲一の談判場面が今から楽しみです。

意外と大事な江戸開城の前交渉をこなす山岡鉄舟役も気になるところですね。

彰義隊戦争では、敬天愛人の西郷隆盛と超合理主義の大村益次郎のやり取りが面白そうです。花神で有名な大村益次郎と海江田信義(有村俊斎)の衝突も描かれるか楽しみです。

また、西郷隆盛と大村益次郎の人物評に際し、大村を兵に将たる専門家、西郷を将に将たる英雄としているところに海音寺潮五郎の西郷に対する敬愛ぶりが分かります。

廃藩置県こそ明治維新そのものだ、との評価でしたが大河ドラマとしては地味になりそうで描かれない気がしていますが、久光が花火上げたりするから面白く描かれるかも。

西郷隆盛の下野に関しては征韓論を描かずにはならないでしょうが、NHKが征韓論をドラマ化するかが興味深いところです。西郷と大久保が袂を分かつ大論争の場面になるでしょうから、描けば非常にドラマチックになるでしょうね。

大久保が西郷を追い出す要因は大久保が国内体制強化のため内務省の必要性を痛感し、それを西郷は必ず反対するとの予測に基づくものという分析には感心しました。

目的のためには手段を選ばない大久保らしさを如実に示していて興味深いです。

そして西南戦争の悲劇で西郷どんは終わるのでしょうね。

見たいような見たくないようなラストとなりそうです。

武将列伝の西郷隆盛の項でも示されていたように、永久革命家の悲劇を描き切っていただきたいです。